将来的に「起業」という選択肢を持ってコンサル業界への転職を目指す方も多いです。
コンサルティングファームでは「経営コンサルタント」という職種で、クライアント企業の様々な経営課題に対して提言ないしは実行の支援を行うため、一見すると起業に直結するキャリアのように見えます。
一方で、実際にコンサルと起業の両方を経験した方の中には、コンサルティングファームでの仕事と起業は全くの別物であり、経験は役に立たないという方もいます。
本記事では実際に、コンサルと起業の両方の経験を持つ筆者が、コンサルの経験は起業で本当に活きるか、コンサルで得られること・得られないことについてご紹介します。
コンサルの経験は起業に活きるか?の論争
マッキンゼーを経てDeNAを創業された南場さんはインタビューの中で以下のように語っています。
マッキンゼーで働いていたときの私と、今の私は“別人”なんですよ。マッキンゼーを辞めたあとに、学んだことはたくさんあります。しかも自分の経験や失敗から学んできました。なにが一番違うかというと、アドバイザーとリーダーという立場ですね。アドバイザーというのはどんなときでも当事者ではないので、冷静に客観的にアドバイスができる。
一方のリーダーは、客観的に物事を見ることができません。ものすごい重責の中で、正しい意思決定をしていかなければいけません。それができないと、ボクサーがリングに立てないようなもの。起業して間もないころ、私はリングに立てない状態でした。当事者になってみるとものすごく怖かったですし、ひとつひとつの出来事に対して、足が震えていたんですよ。
それまでの私はクライアントに偉そなことを言ってきました。「こうするべき」「ああするべき」といった感じで。アドバイザーとリーダーというのは、立っている土俵が違うんですよね。なので、マッキンゼーで学んだことを、いま生かすことができないんですよ。
マッキンゼーでコンサルタントを経験し、その後起業し上場まで成し遂げた南場さんから「マッキンゼーで学んだことを、いま生かすことができない」という話があがったことで、「コンサルと起業は別物」「コンサルの経験は起業に役に立たない。むしろアンラーニングが必要」といった主張が出てくるようになりました。
コンサルで得られることで起業に活きること
ここでは、実際にコンサルを経て起業した実体験を踏まえて、コンサルで得られることで起業に活きることについてご紹介したいと思います。
前提として、コンサルで身につけた思考法やスキル、人的ネットワークなどは起業の多くの場面で役立っており、コンサルでの経験は起業に役に立つと自信を持って言えます。ぜひ参考にしてみてください。
1.市場/競合を調査する力
まず一つ目が市場/競合を調査する力で、これは事業を立ち上げる上で非常に重要なスキルになります。
自分達が構想している事業の対象顧客はどんな顧客なのか、どんな課題・ニーズがあるのか、対象顧客はどの程度いるのか、競合はどの程度いて、シェアはどの程度なのか。
それらの調査を設計して、スピーディーに実行していけるのはコンサルを経験したからこそだと思います。
また調査方法もデスクトップリサーチから、インタビューまで最適な手法を選定して、精度高く行えるのもコンサル出身者の強みだと思います。
2.論点整理をし、課題を明確化する力
起業をすると誰もゴール(解くべき問い=論点)を決めてくれません。
そのため自分自身でゴールを決める必要がありますが、このゴール設定を間違えると、いつまで立っても事業が立ち上がらない、立ち上がったはいいものの全然伸びないということが起きます。
そしてこのゴール設定というのは「どんな事業を立ち上げるべきか?」という立ち上げフェーズだけでなく、「どのKPIを改善すれば事業が伸びるか?」という事業推進フェーズでも日々向き合っていく必要があります。
こうしたゴール設定/論点整理というのは、コンサルティングファームで嫌というほど訓練することになるので、この点もコンサル出身者の強みだと思います。
3.プロジェクトを管理する力
前述の通り、起業すると誰もゴールや期限を決めてくれません。
その中で、ゴール設定して、それを達成するためのタスク分解、スケジュールへの落とし込み、そしてそのスケジュール管理というのが必要になります。
特に新規事業ともなると、検証すべきことは無限にあるため、それらを手当たり次第やっていこうとすると無限に時間は溶けていきます。
そのため、コンサルで培ったやるべきことをプロジェクトとして設計して、管理・運用していくことができる力というのは非常に重要になります。
4.ドキュメントを作成する力
起業家になっても想像以上にドキュメントを作成するシーンは多かったというのが個人的な印象です。
社内でMTGする際にもやはりドキュメントは非常に重要ですし、顧客・提携先への営業資料やマーケティングで使うホワイトペーパーなども作成する必要があります。
また、資金調達を行うのであれば投資家向けの資料を必要になってきます。
コンサルティングファームでは、"分かりやすい"資料を"早く"作成するスキルが身につくので、そのスキルも存分に活きているスキルの一つです。(ドキュメント作成は四六時中発生するので馬鹿にならない)
5.優秀な人とのネットワーク
コンサルティングファームで優秀な人と人脈を作ることができるというのは、起業する上でも非常に貴重な財産になります。
起業直後はそこまで大きく感じることはないかもしれませんが、数年も経てばコンサルティングファームで昇進していくだけでなく、他のフィールドで活躍していく人が出てきます。
大手事業会社でそれなりのポジションに就く人や、スタートアップに参画される人、自ら会社を立ち上げる人など。
そうした人たちから一次情報を得られたり、協業や取引、その先の知り合いを紹介してもらうなど、様々なメリットを享受することができます。
これは他業界と比較して、そのまま会社に残らず他のフィールドで活躍される人が多いコンサル業界ならではのメリットだと思います。
6.いざという時にコンサルとしてキャッシュメイクできる力
起業をしてすぐにキャッシュリッチになることはほとんどなく、立ち上げ時は自分に給料を出すことも難しいですし、しばらくは"吹けば飛ぶ"ような事業規模であるが故に、ちょっとした市場変化やトラブルなどで、キャッシュフローが厳しくなるということも多々起きます。
一方で、コンサル出身者の場合は、フリーランスのコンサルタントとして活動できるインフラが整っているため(フリーコンサルに案件を紹介してくれるエージェントが複数存在する)、立ち上げ時に自分の生活費を稼ぐことや、緊急時に会社にキャッシュを補填するという選択肢も取ることができます。
月額100~200万円の案件が市場に多く出回っているのはコンサル市場ならではであり、コンサル出身の起業家の強みだと思います。(他業種の場合は単価がもっと低い、または案件数が少ない)
起業に必要でコンサルで学べなかったこと
一方で、実際にコンサルを経て起業してみて、起業に重要なことでコンサルでは学べなかった/身に付けられなかったなという点をここではご紹介したいと思います。
1.事業を見極めるセンス
「この事業は儲かりそうか・儲からなそうか」を判断するための"お金に対する嗅覚・肌感覚"はコンサルでは身につきにくいと思います。
コンサルティングファームで対峙するクライアントは財務基盤が盤石であり、扱うテーマも戦略や構想といったものが多いことから、どうしても"お金に対する嗅覚"を養う経験をすることが難しいという性質があります。
最近ではコンサルティングファームも伴走して新規事業を立ち上げるといったケースも増えてきましたが、ある程度潤沢な予算がある企業が立ち上げる事業で、かつ自身も路頭に迷うかどうかが掛かっているわけでもないので、"お金に対する嗅覚"を養う経験としては不十分になってしまうかなと思います。
2.事業のラストワンマイル
コンサルティングファームでも、営業、マーケティング、採用、広報、ファイナンス等の概略を学ぶことはできます。
ただし、それを実際に実務レベルの細かさで理解し、効率的・効果的に実行していくためのポイントを踏まえて推進していくためには、大きな壁があります。
実際、筆者も起業当初は「この事業を伸ばすためにはこの施策をやればいい」という戦略・戦術的なものはパッと思いつくものの、それを実際に実行しようとした時に、うまくできない、誰かに頼らざるを得ないが、どう頼めばいいのかも分からないということがありました。
こうした部分は実際に実務を通じてしか身につかないものであり、コンサルでは学べなかったことだと思います。
3.意思決定力
事業を推進する上では常に大小様々な意思決定が必要になります。
もちろんコンサルティングワークにおいても意思決定は必要になりますが、事業における意思決定とは大きく異なります。
コンサルティングワークでは、もともとプロジェクトでスコープが定められており、その中での狭い意思決定になります。
しかし、いざ事業を始めると、そもそも目の前のプロジェクトをやるべきかどうかから始まり、自分/社員の時間や会社のお金の使い方といったものから、細かいところでいくとサービス名をどうするかや、取引先銀行をどうするかなど、正解がないもの対して、かつ非常に限られた情報の中で意思決定をする必要があります。
そうした意思決定力はコンサルティングファームではなかなか身につきづらいと思います。
4.スピード感を持ったPDCA
コンサルティングワークでは、プロジェクトとして一つのテーマが切り出されて数ヶ月単位で検討を進めます。
数ヶ月間そのテーマにディープダイブできるので、深い検討を行うことができます。
一方で、特に起業当初であれば深く潜るよりも、デイリー単位あるいは数時間単位でPDCAを回していく必要があります。
この深さ、スピード感はコンサルと起業で大きく異なる動き方になります。(筆者自身、起業当初はもっと腰を据えてもっと深く検討したいと感じた一方で、コンサル時代には味わえなかったスピード感を体感することができています)
5.オペレーション仕組み化
コンサルティングファームでコンサルタントとして働く上で、ほとんどルーチンワークと呼ばれるようなものに触れる機会はありません。
一方、事業を推進する上では、プロジェクトのような非定常業務だけではく、ルーチンワークと言われるような定常業務を行っていく必要があります。
こうした定常業務を仕組み化して、誰でも回せるように非属人化を進めたり、効率化を進めたりする必要があります。
前述の通り、ほとんどルーチンワークがないので、オペレーションを仕組み化していくというのはなかなかコンサルティングファームでは学べないことだと思います。
6.異なる経験・スキルセットを持つ人材のマネジメント
近年はダイバーシティを進めているコンサルティングファームですが、それでもまだまだ同じような経験、スキルセット、価値観を持つ人が多い組織だと思います。
一方で、事業を推進する上では、様々な経験、スキルセット、価値観を持つ人が必要になり、起業家としてはそれらの人材をマネジメントする必要があります。
コンサル時代は、同じ経験・スキルセット・価値観を持つ人が多かったため、「1を言えば10分かってくれた」「"頑張る"の定義が一緒だった」など、そこまで工夫したマネジメントをせずとも、円滑に回っていたとしても、それらをそのまま適用することはできません。
前述の通り、コンサルは相対的に同じような価値観・スキルセットを持つ人が多く、ここで躓く人も多い印象です。(実際、コンサルから事業会社に転職してマネジメントを失敗するというのは頻出する事例です)
さいごに
本記事では、実際にコンサルと起業の両方の経験を踏まえて、コンサルの経験は起業で本当に活きるか、コンサルで得られること・得られないことについてご紹介しました。
現状のコンサル業界は大きく拡大しており、一言でコンサルと言っても非常に様々な案件テーマ・ロールがあります。
一昔前では「コンサルと言えばこういう経験をできる/得られる」ということで定義ができましたが、現状は案件テーマ・ロールに大きく変わってきます。
そのため、起業に活用できる経験を積むためには、ファーム選びやユニット選びが非常に重要になってきます。
そうした転職先選定までも実体験をもとに支援できるのが弊社の強みだと自負しています。
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