コンサルタントであれば必ず読んだことがあると言っても過言ではない名著が「イシューからはじめよ」である。
本記事では書籍「イシューからはじめよ」を外資コンサルに勤めていた筆者が図解要約をしていく。
本書は「ロジカルシンキング」という観点からも非常に示唆に富んだ書籍であるため、是非とも目を通してみていただきたい。
Contents
0.本書のゴール:バリューのある仕事をする
本書「イシューからはじめよ」のゴールは「バリューのある仕事」と定義されている。
「バリューのある仕事」とは具体的に何なのかについて、まずまとめていく。
バリューのある仕事とは何か?
「イシューではじめよ」ではバリューのある仕事を「イシュー度と解の質の両軸が高い仕事」と定義している。
イシュー度と解の質は以下のように定義されている。
- イシュー度:問題に答えを出す必要性の高さ(課題の質)
- 解の質:イシューに対してどこまで明確に答えをだせているかの度合い
つまり、「課題の質」と「解の質」が重なり合ってはじめて、「バリューのある仕事」になるということである。
世の中の多くの人が「解の質」だけに注力し、「課題の質」はおざなりになりがち、ということを本書は指摘している。
仕事を通じてインパクトを与えたり、お金を稼ぐには、イシュー度の低い仕事に対して解の質を高めようとしても無駄で、「イシュー度の高い仕事」を行っていくことが重要と筆者は強調している。
バリューのある仕事をする方法
それでは、どうすれば課題の質・解の質の高いバリューのある仕事ができるようになるのか。
バリューのある仕事へ辿り着く道は2つある、と本書では紹介している。それが以下の2つの道である。
- 方法①:犬の道(ひたすら解決)アプローチ:一心不乱に大量の仕事をこなし、ひたすら問題を解いてアウトプットを出していく
- 方法②:イシュー起点(イシュー絞り込み)アプローチ:イシュー度の高い問題を絞り込み、問題に対してじっくりとアウトプットを出していく
「イシューからはじめよ」では2つのアプローチのうち、とるべきは「イシュー起点アプローチ」と強調している。
なぜイシュー起点アプローチが必要か?
ひたすら解決アプローチではなくイシュー絞り込みアプローチが重要なのは「リソースは有限」だからである。
これはいわずもがなではあるが、「ビジネスはいかにお金・時間が限られた中で結果を出すか」ということが重要である。
イシューの絞り込みを行わずひたらす問題を解いていくアプローチでは、有限であるリソースの中で最大のバリューを発揮することはできない。
反対に、イシュー起点アプローチは「解決必要度の高い問題を絞り込み(イシュー)、限られたリソースを集中投下し、解の質を高めれるようなアプローチ」であり、限られたリソースの有効活用を前提としたアプローチになる。
上記を説明すると、全部の課題が重要なんじゃないか?と思われる方もいると思うが、以下のように、「本当に解くべき問題は絞り込める」というのが本書の前提にある。
”世の中にある「問題かもしれない」と言われていることのほとんどは、実はビジネス・研究上で本当に取り組む必要のある問題ではない。世の中で「問題かもしれない」と言われていることの総数を100とすれば、今、この局面で白黒はっきりさせるべき問題はせいぜい2つか3つくらいだ"
また仮にすべての問題を解く必要があっても、優先度をつけるためにイシュー起点アプローチは重要になる。
更にチームで仕事を出している場合は、「何に答えを出すべきなのか?(イシュー)」についてブレることなく活動に取り組むことで、以下のようなメリットもある。
- プロジェクトの立ち上がりが圧倒的に早くなる
- 混乱の発生を予防出来る
- 目的地が見えることで力が湧く(目的地が見えない活動は心が折れる)
1.イシュー起点アプローチの具体例:1週間の時間の使い方
イシューを絞り込むことで解の質をあげるアプローチが「イシュー起点アプローチ」ということを学んだが、それを具体的に仕事に落とし込むとどのような時間の使い方になるのかという点について、具体的な事例を見ていく。
以下は、あるテーマについてアウトプットをまとめる、という仕事を振られた場合の時間の使い方例である。
左が「よくあるアプローチ」、右が「イシュー起点アプローチ」である。
上記の具体的なステップについて、これから要約をしていく。
2.イシュー起点アプローチ:アウトプットまでの3つのステップ
「イシューからはじめよ」アプローチにはアウトプットを出すまでに大きく3つのステップがある。
①イシューの絞り込み、②イシュー分析、③アウトプット(仮説検証・分析作業)、それぞれについて詳しく解説していく。
ステップ①イシューの絞り込み
イシュー起点アプローチではまずはイシューを絞り込みが重要となる。(「イシューからはじめよ」では「見極める」と表現している)
それではイシューを絞り込むにはどうすればいいのか。
イシューを仮説形式にする
イシューを絞り込む上で、「イシューからはじめよ」では、まずは「解くべき問いを仮説形式にすること」が重要と記されている。
スタンスを取り、前倒しで仮説を立て、解くべき問題を明確化していく。逆に、このステップでは”こんな感じのことを決めないとね”といった「テーマの整理」や”やってみないとわからないよね”といった「とりあえずやってみるスタンス」はNGになる。
例えば、「新しい会計基準について調べておいて」という仕事のオーダーがあった時に、何の仮説も持たずに仕事に取り掛かるのではなく、以下のように仮説を設けてイシューを設定することが重要となる。
- 「新しい会計基準化では、わが社の利益が大きく下がる可能性があるのでははないか?」
- 「新しい会計基準化では、わが社の利益に対する影響が年間100億円規模あるのではないか?」
- 「新しい会計基準化では、競合の利益も変動し、わが社の相対的地位が悪化するのではないか?」
- 「新しい会計基準化では、各事業の会計管理・事務処理において何らかの留意点をもつことで、ネガティブな影響を最低銀にできるのではないか?」
イシューを言語化する
イシューを絞り込む上では、イシューをきちんと言語化・文章化しておくのも重要である。イシューを言語化する際には以下のポイントを抑えておく必要がある。
- 主語と動詞を入れる
- 「Why」より「Where」「What」「How」:「~はなぜか?」という表現には仮説がない為、答えを出せるように「どこを目指すべきか?」、「何を行うべきか?」「何を避けるべきか?」「どう行うべきか?」「どう進めるべきか?」といった形にして表現する
- 比較表現を入れる:対比表現を入れることで何に答えを出そうとしているのか?が明確になる。
イシュー特定の為の情報収集
イシューを発見する為にもある程度の材料は必要となってくるため、まずは「初期的な情報収集」が必要となる。
情報収集については「1次情報に触れる」「基本情報のスキャン」「集めすぎない・知りすぎない」ことがポイントである。
ステップ②イシュー分析(イシュー分解、ストーリー組み立て、絵コンテ作り)
イシューを絞り込んだ後は、解の質を高める作業に移る。
解の質を高める作業を本書では「イシュー分析(イシューアナリシス)」と名付けている。
イシュー分析は、主に4つのステップから行うことになる。
1.イシューの分解
多くの場合、イシューはいきなり答えを出すことが難しい”大きな問い”のため、おおもとイシューを「答えを出せるサイズ」まで分解していく必要があり、この分解したイシューを「サブイシュー」と言う。
例えば、「新しい新規事業コンセプトを出す」といったメインイシューがあった場合(※そもそもこのイシューは仮説思考が出来ていないので適切ではないが)、以下のようにサブイシューに分解できる。
イシューを分解するときには「ダブりなくモレなく(特にモレなく)」、「本質的な意味のある固まりで」分解することが重要である。
後者の「本質的な意味のある固まりで分解する」のは特に重要で、例えば「ある商品の売上をテコ入れしたい」という課題が合った場合、売上をダブりなくモレなく分解する方法は以下のように無数にある。
個数×単価、市場×シェア、ユーザー数×ユーザー当り売上、首都圏売上+関西売上+他地域売上、等
状況に適した「固まり」で分解をすることが重要となる。
イシュー分解のコツとしては、「最終的に何がほしいのか?」から考え、そこから必要となる要素を何度も仮想的にシミュレーションする、ことである。
2.サブイシューを仮説形式にする
「イシューの見極めパート」でも仮説を立てることの重要性を記したが、分解したサブイシューでも同様である。
サブイシューに対してもスタンスを取り仮説形式にすることで、後々必要になる分析のイメージもクリアにすることができる。
3.ストーリーライン組み立て
イシューを解けるサイズまで分解し、それぞれのサブイシューを仮説形式にしたら、「自分が最終的に何を言いたいのか」をストーリーにして組み立てる作業に移る。
イシューの仮説が証明されたものは「メッセージ」と呼ぶ。
- イシュー:新しい会計基準化では、わが社の利益に対する影響が年間100億円規模あるのではないか?
- メッセージ:新しい会計基準化では、わが社の利益に対する影響が年間100億円規模ある。
ストーリーラインはこのメインメッセージを伝える為のサブメッセージ(サブイシューの仮説が証明されたもの)をつなぎ合わせたものである。
ストーリー形式にした上で、他人へどのような順序でアウトプットを伝えていくか、その順番で本当にいいたいことが伝わるのか?を確認していく。
4.絵コンテ作り
ストーリーラインを組み立てたら、次は分析イメージ(=絵コンテ)を作る作業に入る。
「最終的に伝えるべきメッセージ(=イシューの仮説が証明されたもの)」を考えた時、どのような分析結果があれば自分/相手を納得させられるか?を考え、実際の絵コンテにして落とし込んでいく。
ここでは「どんなデータが取れそうか」ではなく「どんな分析結果がほしいか(必要か)」を起点に考えることが大事で、どんなデータがあればストーリーラインの個々の仮説(=サブイシュー)を検証できるのか?という視点で分析を考えていく。
ステップ③アウトプット(仮説検証・分析作業)
上記のステップが終わったら、最終的にアウトプットである検証~分析作業を進めていく。
ここで重要なのは、「答えありき」の都合の良い見方だけをしないことである。
極端な例だが、「地球が平ら」という仮説を検証する為に、都合の良い分析ばかり行い、「地球は平らでした」と仮説検証しても本質的ではない。重要なのは、フェアなスタンスで意味のある分析をファクトに基づいて行うことである。
筆者の経験上、ストーリーラインを崩したくないから自分たちの仮説が正しいと言えることばかり集めてきて、本当に正しいかどうかという検証をしない、というスタンスのコンサルもいたりするが、これは「解の質」が著しく低く、バリューの高い仕事とは言えない。
ストーリーラインは分析・検討が進み、サブイシューに答えが出て新しい気付きや洞察が得られるたびに書き換えて磨いていくものである。
この書き換えサイクルを高速で何度も回していき、最終的に「ファクトに基づいたストーリーライン」を作成していくことが「高い解の質」につながる。
本書内でも「完成度よりも回転数」「エレガンスよりもスピード」という記述があり、いかにこの検証サイクルをスピーディーに回せるかが解の質を高める上で重要となる。
「イシューからはじめよ」要約まとめ
- バリューのある仕事とは「課題の質と解の質の両方が高い仕事」を指す
- 有限なリソース内でバリューある仕事を達成するには「イシュー起点アプローチ」が重要
- イシューとは「解決必要度の高い問題」を指し、イシュー起点アプローチは「解決必要度の高い問題に絞り込み(イシュー)、限られたリソースを集中投下し、解の質を高めれるようなアプローチ」を指す
- 「イシュー起点アプローチ」の3つのステップは「①イシューの絞り込み」「 ②イシュー分析(イシュー分解、ストーリー組み立て、絵コンテ作り)」「③アウトプット(仮説検証・分析作業)」
- イシューを絞り込む為には、初期的な情報収集を行い、解くべき問いを仮説形式にして言語化をする
- イシュー分析に際しては、上記で出てきたメインイシューを解けるサイズのサブイシューに分解し、サブイシューも仮説形式にし言語化
- その後、サブイシューを、どのような順番で伝えればいいのか?というストーリーラインを組み立て、ストーリーラインが固まったら、各メッセージ(=イシューの仮説が証明されたもの)を証明するために必要な分析結果を絵コンテにする
- 上記が固まって、はじめて検証~分析作業を進めていく