嶋津紀子氏。東京大学経済学部卒、スタンフォード大学経営学修士課程(MBA)修了。ボストンコンサルティンググループにて大企業の経営戦略立案に従事。その後、トヨタの経営企画やアメリカのスタートアップ、ソフトバンクのVCを経験。2018年にJapan Search Fund Accelerator(JaSFA:ジャスファ)を設立、代表取締役に就任。
サーチファンドはMBAを卒業した30歳前後の若者のキャリアとして、欧米を始めとした諸外国で急速に広まっているキャリアオプションである。今回はそんなサーチファンドに投資を行うJapan Search Fund Acceleratorの代表・嶋津氏に、サーチャーというキャリアや、ポストコンサルとしての魅力についてお話を伺った。
サーチファンドとは
サーチファンド(Search Fund)とは、1984年にアメリカで誕生した投資モデルである。30代前後の優秀で意欲のある若者が投資家から資金を集め、自分が社長となり承継する中小企業を探し、買収を行った上で通常5~7年かけて企業価値向上に取り組み、最終的にExitを目指す。
社長を目指して会社を探す若者はサーチャーと呼ばれ、買収資金や買収企業のサーチ~企業買収までの期間の給与はサーチファンドから拠出される。買収企業のストックオプションも付与されるため、Exitによってキャピタルゲインも得ることができる。
出所:Japan Search Fund Accelerator HP
継承する中小企業の見つけ方
ーサーチャーは実際にどのように承継する中小企業を探してくるのでしょうか?
欧米では、インターン生の助けを借りたりもしながら、業界研究とコールドコール・コールドメールを繰り返し、自力でサーチ活動を行うのが一般的です。個人の伝手を使ったり、銀行や仲介会社から紹介してもらうといった方法もあります。しかし、突然アプローチしてきた第三者に簡単に機密情報は渡せないため、個人でゼロから開拓していくのはハードルが高いと言えます。
JaSFAでは現在山口フィナンシャルグループ(山口FG)とFund of Search Fund(サーチファンドへ投資するファンド)を運営していますが、山口FG傘下の山口銀行、北九州銀行、もみじ銀行のネットワークを活用することが可能です。
山口FGに後継者問題を相談している企業を訪問させていただいたり、山口FGの支店を回り自身の強みや志向をアピールする中で、「〇〇さんにはあの企業が合いそう」とご紹介いただいたりしています。
現在JaSFAと野村HDにて設立に動いているFund of Search Fundでは、野村證券やご参画いただく予定のLP企業のネットワークを活用することで、全国にて承継を検討している中小企業をご紹介することが可能になる予定です。
ー実際、得体の知れない若者に事業継承を行ってくれるものなのでしょうか?
簡単ではありませんが、「〇〇さんだから会社を譲りたい」という事例も存在します。特にコンサルタントであれば業界知見も社会人経験も少ない中で、自分よりも遥かに知見・経験のあるクライアントの部長や役員、社長といった方々と、短期間で信頼関係を築いていく経験を積んでいるので、その経験は強いと思います。
対象となる企業規模・業種
ーサーチファンドで対象となる企業規模はどの程度になるのでしょうか?
先行している欧米の例で言うと、企業価値10億円程度で、売上が10-20億円、利益が1桁億円という規模感がボリュームゾーンになります。従業員数で見ると30-80人程度になります。これらはあくまでボリュームゾーンであり、サーチャーの経験値によって変わってくるところではあります。
ー仮にコンサル出身者がサーチャーとなる場合、相性の良い規模や業種などはありますでしょうか?
あくまで平均的なコンサルタントという前提ですが、異なる経験や価値観を持つ人達を束ねた経験が乏しい方も少なくないと思います。その場合、いきなり従業員数が数十人後半の規模をマネジメントするのではなく、従業員20~30人程度の規模がそれほど大きくない会社から経験を積むのが良いと思います。
また業種でいうと、これも経験に寄りますが、コンサル出身者だと製造・生産現場を知らないという人も多いと思うので、サービス業の方が相性が良いことが多いかもしれません。コンサル出身者であれば定量的な分析が得意な人も多いと思うので、情報が取得できてそれを価値に変えられるようなtoCの中でも顧客に直接販路や接点を持つ業種も相性が良いと思います。
バリューアップの方法
ーバリューアップのフェーズでは様々な課題に直面すると思いますがどのように対処していくのでしょうか?
もちろん我々としては壁打ち相手になったり、必要に応じてその道のプロフェッショナルを紹介したりもしますが、基本的にはご自身で乗り越えていくことが前提になります。我々への報告もサーチャーのご経験や会社の状態によって変わってきます。大事な局面では毎日のように議論を重ねることもあるでしょうし、事業承継後、安定的に計画実行ができるようになれば、ミニマム四半期に一度の報告程度になるかもしれません。ファンドがマイクロマネジメントをすることが前提ではなく、社長として責任感を持ち、会社を委ねられる方に投資をしていくという考え方です。
バリューアップのフェーズにおいて未経験の課題に数多く対処する必要がありますが、コンサルで未経験業種・ファンクションでも短期間でキャッチアップしてきた経験というのは大きな武器になると思います。
ーサーチファンドでは複数人で会社経営を行うこともあるのでしょうか?
国内では現状1人が多いですが、海外では2人で経営を行うことが多く実際に2人のほうが成功率が高いとも言われています。それ以上の人数については、買収先の企業に求める規模感が大きくなってしまうこと、またキャピタルゲインが限定的になってしまうこともあり、ほとんど聞きません。
サーチャーのネクストキャリア
ーサーチファンドにおけるExitとしてどのような形が多いのでしょうか?
海外では同業やPEファンドなどの第三者への売却が多く、MBOはほとんどない状況です。企業価値10億円程度の規模感だとPEファンドの投資対象に入らないことが多いですが、サーチファンドによってバリューアップすればPEファンドの投資対象に十分なり得えます。業種や成長戦略、会社のフェーズによっては、上場を目指していくことも可能だと思います。日本のサーチャー志願者の特徴として、MBOを目指す方も少なくないことから、投資家とサーチャーにとってフェアなバリューでの取引が前提となりますが、MBOもありうる手段です。
ーExit後のポストサーチャーとしてはどのようなキャリアがあるのでしょうか?
資金としてはExitした後も会社に残り続ける人や、サーチャーとして別の企業を買収する人、一段大きい中堅規模の会社経営者になる人など様々なキャリアがあります。また、Search Fundへの投資家になる人や、海外ではMBAの講師になる人もいます。日本でも、ビジネススクールでのアカデミックキャリアの需要は今後増えていくと予想しています。個人的には、大成功した起業家がエンジェル投資家となって後輩を育成するように、大成功したサーチャーの何人かは投資家となって、サーチファンドの次世代コミュニティを一緒に築いてくれるといいなと思っています。
サーチャーを選定する上で見ているポイント
ーサーチャーを選定される際、どのようなポイントを見ているのでしょうか?
我々としては「頭の良さ」「コミュニケーション力」「アントレ精神」の3つを見ています。「頭の良さ」とは学歴などではなく、学習能力や相手の気持ちを推し量ることができる想像力、適切にリスクを把握できる力などが該当します。「コミュニケーション力」とは、異なる価値観や経歴の相手とも会話のテンポを合わせながら意思疎通を図れる力や、人間的な魅力などが該当します。そして最後の「アントレ精神」とは高い好奇心やポジティブ思考、メンタルの強さややりきる力などが該当します。
ーコンサル出身者であればどのような経験がある人がより向いていますか?
大上段の戦略策定をずっとやっていたという人よりも、常駐や事業会社経験がある人の方がサーチャーをやる上で強いと思います。クライアントの特徴で言うと、中堅・中小企業をクライアントとして全方位的に支援するような経験も相性が良いです。また、引き出しの多さも大きな武器になるので、一つの領域で深い経験がある人よりも複数の業種やファンクションを経験した人の方が強いです。
付け加えると、コンサル経験に限らず粒が不揃いの中でリーダーシップを発揮した経験や、チームで何がを成し遂げた経験があると強いと思います。
ーお話を伺っているとコンサル出身者のネクストキャリアとしてサーチャーの相性が良いという印象を受けました。
仰る通り、相性が良いと思います。実際海外でもコンサル出身者のサーチャーは多いです。もともと私自身がポストコンサルキャリアに迷っていた時にサーチファンドの話を聞いて興味を持ち、またBCGの仲間にも相性が良いと思ったことがJapan Search Fund Accelerator設立のきっかけになっています。
ーサーチャーに興味があるという人はどのようにアクションすれば良いのでしょうか?
会社HPからお問い合わせいただく、不定期で行っている説明会にご参加いただく、TwitterにDMいただくなど、方法は何でも構いません。サーチャーというキャリアは起業であり、強い意志がある人を我々が支援していく形になります。ですので、我々から声をかけるということはしないので、「やりたい!」という強い意志がある人はぜひご連絡ください。
>>会社HP:http://japan-sfa.com/